タクシー


タクシーには滅多に乗らない。

僕には自転車があるから。

一人で乗ることなんかはますますない。



でも、この前久しぶりに一人でタクシーに乗った。

というか、乗せてもらった。



乗り込んでシートに座ると、

まるで道路に沈んだ感じで、

違和感ともいえる安堵は少しくすぐったくて落ち着かないんだけど、

同時に、幼いころに戻ったような気がして、

シートはやたら広く、やっぱり沈んだ。



僕は渡されたお札を握ったままで、

コートも脱がず

前の席の谷間から、

別世界のドアをくぐった。


運転手さんはあっちを向いたままでいろいろ話しかけてくれたので、
(僕が一枚、写真を撮ったものだから、ひたすら写真の話だったかな)

僕もこっちをむいたままで、適当な相槌を打った。


気がつくと、谷間から運転手さん、

「お客さん、ここでいいですか?」


「・・・。」


「あ、はい、いいです」


残念そうなぼく。


(ここどこだっけ。)



タクシーを降りた僕は浦島太郎。

はたまた猿の惑星

走り去るタクシーが胡散臭い。


最後に乗ったエレベーターは、

点灯する数字にドキドキして

ホントに着くのか怖いほどだった。












タクシーは後部座席に限る。

タクシーは一人で乗るに限る。

タクシーは夜に限る。

タクシーは非日常